2015.7

 

 

 


File number 001

3300年前の戦車とヘリコプター!?
― セティ1世の葬祭殿に刻まれた“ありえないレリーフ” ―

エジプト・アビドス。
そこに佇む「セティ1世の葬祭殿」は、数あるエジプトの神殿の中でも特に美しいとされ、訪れる者の心を奪う神秘的な場所です。
この神殿が建てられたのは今からおよそ3300年前、エジプト新王国時代、第19王朝のファラオ・セティ1世の時代(紀元前1318?1304年)。
その死後、息子ラメセス2世の手によって完成されました。
場所は首都カイロからナイル川をおよそ500km南下した先、ルクソールから車で3時間ほどの距離にある聖地アビドス。現在は静かな遺跡が広がるこの地も、かつてはオシリス神話と深く結びついた宗教的中心地として栄え、神殿や墓所が数多く築かれていました。

驚くべきは、このセティ1世の神殿に刻まれたレリーフの保存状態の良さ。
色彩を保ったまま残る壁画の数々は、まるで時間が止まったかのような印象を与えます。

しかしこの神殿には、考古学的価値とは別に、もう一つの顔があります。
それが、「時代錯誤のレリーフ」。
神殿の一部、天井を支える梁(はり)の上に、信じがたい彫刻が存在しているのです。
それは、どう見ても現代のヘリコプター、戦車、果ては飛行船のように見えるシルエット。

当時存在するはずのないこれらの乗り物が、なぜ3300年前のレリーフに彫られているのか?
「古代エジプトには高度な文明が存在していたのでは?」
「ピラミッド建設にもその技術が使われていたのでは?」
――そんな説も、まことしやかに囁かれてきました。

とはいえ、これらの“乗り物”に対応するような基地や格納庫といった痕跡は、これまで一切見つかっていません。
また、古代エジプトの衣装を身にまとった人々が、それらの近代兵器に乗る姿は想像しにくいのも事実です。

では、真相は?
この奇妙なレリーフについて、エジプト考古省をはじめ、国内外の専門家たちは次のように説明しています。
それは「偶然が生んだ視覚の錯覚」だと。
実はこの部分のヒエログリフ(古代エジプト文字)は、もともとセティ1世の名前が刻まれていた場所。
その後、新たに即位したラメセス2世の命によって、元の文字を石膏で覆い、その上から新しい文字を彫り直したとされています。
ところが、長い年月のうちに石膏が剥がれ落ち、2つの王の名前が重なって見えるようになった。
それが、ヘリコプターや戦車のように見えるシルエットを生み出した、というわけです。

▼セティ1世の文字
(もともとのレリーフ)


 

 

▼ラメセス2世の文字
(後から彫られた文字)

これらが重なり、視覚的にまるで現代兵器のように見えてしまう現象を、学術的には「パリドリア(Pareidolia)」、すなわち“意味のない視覚情報を、意味のあるものと誤認する心理現象”とも捉えることができます。

とはいえ、なぜこれほど巧妙な形になったのか?
本当にただの偶然なのか?
ロマンと謎が交錯するこのレリーフは、今もなお多くの人々を惹きつけてやみません。
あなたは、このレリーフをどう解釈しますか?